2017年05月26日

バベルの塔展

通勤途中の駅のホームに「バベルの塔」のポスターがあるのが、ずっと気になっていたのです。
ブリューゲルの代表作「バベルの塔」。
これと、知る人ぞ知るヒエロニムス・ボスの油彩作品2点が見られる、というので、金曜の午後半休して上野に行ってきました。
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「バベルの塔」展公式サイト


「バベルの塔」展

(東京都美術館ウェブサイト内)


季節は5月。
上野界隈は、平日といえどもそこそこの混雑。
あからさまに修学旅行生らしき、制服姿の少年少女の一団までもがそこかしこに。
あちゃー、これなら大人しく、金曜夜を狙った方がよかったか?
挙げ句、「さつき展」とやらの出店に気を取られ、久々の東京都美術館への道を間違え大回り。
でも、地域猫さんと戯れられたからそれはそれでヨシとする。
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さて、東京都美術館。
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入口の銀の球体の前で、修学旅行生らしき若者がキャッキャしながら写真を撮るのを横目に入場。
最後に行ったのは改装前だったから、結構久々なのです。
チケットを買って、音声ガイドを借りて、いざ入場。
音声ガイドは「塔」繋がりでの雨宮塔子さんと、声優の森川智之さん(マスコットキャラクターの「タラ夫」役も兼任)だそうで、この時点でいろいろツッコミたい(笑)

序盤は、ボス以前のネーデルラント地方の作品の紹介。
主に宗教画と地元の名士の肖像、かな。
初期のものは聖書の一場面に題材をとった作品や、聖人の姿に地元の名士をなぞらえる作品が多いが、時代を下っていくと、「宗教画の名を借りた風景画」になっているものも多々。
ヨアヒム・パティニールの「ソドムとゴモラの滅亡がある風景」は、旧約聖書でも有名なロトの一家の脱出が描かれているけれど、肝心のロト一家は下の方に小さく描かれているだけで、パッと見はタダの風景画です。
「フォンセカ家の若い男の肖像」は、ワタシにはどう見てもふかわりょうにしか見えずに笑いをこらえてたんだが、後でtwitterで検索してみたら、同じことを思った人は多かった模様。

宗教画もわりと好きなんだけどねぇ。
「枝葉の刺繍の画家」による「聖カタリナ」と「聖バルバラ」の緻密な描き込みに感嘆し、「これは絵ハガキ買おう」と思ってたのに、後で売店に行ったらなくてしょんぼり。
(嵩張るのでほとんど図録は買いません)

枝葉の刺繍の画家《聖カタリナ》1500年頃 / 枝葉の刺繍の画家《聖バルバラ》1500年頃
(インターネットミュージアム)

この画家の名前はわかっておらず、人物背後の木の描写が刺繍のように緻密だから「枝葉の刺繍の画家」と呼ばれているらしい。
実際、聖女達が身に着けている衣装の描き込みの美しさたるや、目を見張るものがありました。

さて、ここからが本題。
「ヒエロニムス・ボス」といえば、「快楽の園」が有名ですな。
幻想的・奇想的なモチーフが多く描かれた、不思議な雰囲気の祭壇画。

ヒエロニムス・ボス「快楽の園」

(Wikipedia)

「ボス」の名前は、生涯離れなかった出身地スヘルトーヘンボスから来ているらしい。
そして、その真作は30点もないらしい。
学生時代、西洋美術史の授業で触れるまで名前も知らなかった画家ですが、近年ちょこちょこメディアで取り上げられているのを見かけます。

今回は、この画家の真作油彩板絵「放浪者」と「聖クリストフォロス」の2点が初来日、とのこと。
どちらも有名な作品です。
バベルの塔ばっかりクローズアップされてますが、ワタシが見に来たのはこちらがメインと言ってもいい。

最初に展示されていたのは「放浪者」。
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八角形の板の中央に描かれる、みすぼらしい姿の放浪者。
彼は画面右へ歩き出しつつも、背後の何かに気を取られる風情。

絵の近くには、絵の部分拡大パネルでわかりやすい説明がありました。
放浪者の背後にあるのは、実は娼館だそうな。
そして、画集なんかでチラリと見ただけでは気づかなかったけど、放浪者が背負う荷物には、何と猫の毛皮がぶら下がっている!
放浪者は行商人らしく、猫の皮や柄杓は売り物、という説明がありました。
手に持つ帽子に留められた錐は靴の修理道具だとか。
世俗の誘惑に惑わされつつ、仕事道具を携えて歩く「放浪者」は、「人生」そのものの諷刺なのかもしれん。

もうひとつの「聖クリストフォロス」。
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学生時代、西洋美術史の授業のテーマで取り上げられ、ワタシがボスを知るきっかけになった絵でもあります。
聖クリストフォロスは、キリストを背負って川を渡ったという聖人で、旅人の守護聖人だそうな。
(そういや、この展覧会では他にも何枚か聖クリストフォロスの絵があったっけ)

聖クリストフォロス
(Wikipedia)
↑のWikipediaの記事トップに出てるのも、ボスの「聖クリストフォロス」ですな。

ボスの「聖クリストフォロス」は、そこそこの大きさ。
こちらにも拡大パネルが設置され、絵の説明がなされています。
真ん中に描かれているのは、幼児の姿をしたイエス・キリスト、そしてそれを背負った巨人、聖クリストフォロス。
彼の持つ杖の小さな新芽は奇跡の、杖にぶら下がる魚は磔刑の暗喩。
絵に描き込まれた奇怪な図像についても説明されてます。
背後に描かれる遠景で、奇怪な生物に襲われて逃げる人は、危険が迫っていることを示し、岸辺で漁師に吊るされる熊の死骸は、危険が去ったことを示しているのだとか。
また、岸辺の木に掛けられた壊れた水差しに住む人々についても言及がありました。
岸辺に立つ人と犬のサイズからすると、水差しに住む人々のサイズ感がよくわからんが、このへんのモチーフはボスっぽいなー。

この後は、ボスやそのフォロワー達のエングレーヴィング(銅版画)が多数展示されていました。
ボスのモチーフが人気だったので、ボスの死後も「ボス原案」みたいな銅版画がたくさん作られたらしいです。
でもって、その「ボス・フォロワー」のひとりが、今回の「バベルの塔」の作者でもある、ピーテル・ブリューゲル1世、という訳で。
ブリューゲルは、ネーデルラントの諺なんかに題材をとったボス風の画題も多く手掛けているそうな。
今回の展覧会の公式マスコット「タラ夫」は、「大きな魚は小さな魚を食う」という諺(日本だとさしずめ「弱肉強食」)を題材にした版画の端にいる、魚に足が生えた奇妙な生き物をベースに作られたらしい。
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↑の丸で囲ったのが「タラ夫」のモデル。

「ブリューゲル」と聞くと「農民の絵を描いてた人」くらいの印象でしたが、ブリューゲルとボスが繋がってたなんて知らんかった。
確かにこの「大きな魚は小さな魚を食う」は、パッと見で「ボスっぽい」という印象を受けます。

この後も、延々と細かい銅版画が展示されてました。
それほど大きい作品でもないのでそこそこ狭い間隔で展示されていることに加え、みんな細かい描写を目を皿のようにして眺めるものだから、むしろボスの真作2点のあたりよりも混んでる、という残念な状況に(´・ω・`)
このあたりで結構疲れてきたので、ちょっと流し見で先に進みます。

さて、最後のセクションで、いよいよ「バベルの塔」。
「バベルの塔」を模した壁やらパネルやらに迎えられつつ、今回のメイン作品は、特設の部屋の一番奥にちんまりと飾られておりました。
平日昼間だったこともあり、絵の周囲にはせいぜい20人程度しかいなくて大変見やすい。
ちょっと待てば、すぐ最前列でガン見できます。

予想以上にちっちゃい!
けど、緻密!

上の方が赤いのは、上に行くに従って新しいレンガが使われてるので赤く、下の方のレンガは時間が経っているので落ち着いた色になっている、ということらしい。
建築資材を上に運び上げるのにクレーンを使ってたり、建築途中の塔の中にも居住空間っぽいところや貴人のためと思しき空間があったり、塔の麓にはブリューゲルの時代のネーデルラントの農村が描かれてたり、と、結構いろいろ描き込まれていることもここで知りました。
ブリューゲル以前の「バベルの塔」はわりとちっちゃい(現代の3〜5階建てくらい?)のですが、ブリューゲルはイタリア旅行で見たコロッセウムをベースに「バベルの塔」の構想を練ったのではないか、とも。

一応今回もギャラリースコープを持参してましたが、それでも結構細かいところはよくわからない。
すぐ脇に映像コーナーがあったので、それも見てみた。
東京芸大の人達が、絵から3D映像を作った、というすごいシロモノ。
これ、圧巻です。
スゲーなー。今の技術は、ここまでできちゃうんだなー。

そして、その3D映像から、改めてこの絵に描かれている、「バベルの塔を建築する人々」の息遣いを感じました。
「バベルの塔」は、天まで届くような高い塔を作ろう、という人間の驕りを神が諌める物語なんだけど、この映像からは「人間にはこんなものも作れる!」みたいな、人間の技術に対する肯定的な印象を受けたのです。
ブリューゲルは農民の絵を好んで描くのですが、実際取材がてらちょいちょい農村に行ってリアルな庶民の暮らしぶりを眺めてたそうな。
諺をモチーフにした諷刺的な絵も手掛けつつ、人々の暮らしを描き出すブリューゲルさんは、きっと「人間」そのものに対する興味が強かったんじゃないかな、なんて思いました。

ミュージアムショップがまた、大変に充実してました。
トートバッグやらTシャツやらマグカップやら、と、まぁいろいろ。
そんな中、インパクトあったのは売店中心に置かれていた「TOWEL OF BABEL」なるタオルの塔。
塔の柄のタオル(しかも今治タオル)を丸めて、塔の形にディスプレイする、という気合の入れよう。



面白かったので買ってきちゃいました。
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・畳んでたら何だかわかんない
・広げてもまだよくわかんない
・縁の文字で、ようやく元ネタがわかる
ってあたりが結構ツボ。

ミュージアムショップを出ると、タラ夫発見。
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「着ぐるみが見当たらないときは、近くにお出かけ中」だそうです。
土日なんかだと、中に人が入ってウロウロしてるんだな、コレ。

っていうか、「タラ夫」って名前もどうよ。
どうしてコイツをマスコットにしようと思ったのか……
しかも、スネ毛までつけちゃう魔改造っぷりだし……
ちなみに音声ガイドだと、それまで普通にガイドしてくれていた森川さんが「タラ夫」としてノリノリで「タラ夫が語るネーデルラントの諺」をやってくれてますよ。

出口では、今回の展覧会のスポンサーである朝日新聞の特集版も配布されてました。
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そういえば、入口には「AKIRA」で名高い大友克洋さんによる「INSIDE BABEL」という作品も展示されておりましたな。
これまた緻密なものですが、薄暗いので若干見づらかったナリ。

所要時間、約2時間。
金曜の午後でしたが、多少混んではいるものの、そこまでストレスな感じの混雑ではなかったかな。
目玉展示はだいたいゆっくり見られたし。
ただ、途中の銅版画あたりは大変緻密な線のわりに作品自体が小さいので結構渋滞してました。
今回の展覧会は、ギャラリースコープ必携です。

そうそう、そのギャラリースコープ関連。
途中でウッカリキャップを落っことして、落としたと思しきあたりで10分くらい足元見ながらウロウロしてました(´・ω・`)
どうしても見つからないので、ダメ元で係員さんに聞いてみたら、何とちゃんと入口に届けられてた!
おかげで、無事入口で受け取ることができました。
あんなちっぽけなものをちゃんと届けてくれる人がいるとは、東京もまだまだ捨てたもんじゃないなぁ・゚・(つД`)・゚・


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posted by 実里 at 23:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 芸術鑑賞 | 更新情報をチェックする
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